東京には、何でもあるようで、もう残っていないものも多い。
とくに昭和の裏通り文化はそうだ。ネオンサイン、場末の喫茶店、雑居ビルの小さな興行場。昔は街のどこかにあったのに、気づけばほとんど消えている。
その中でも、今では特に見かけなくなったもののひとつがピンク映画館だ。
若い世代には、言葉だけ知っていても実物を見たことがない人の方が多いはず。成人向けの映画を上映する古い映画館、と聞くと、なんとなく怪しげで、なんとなく時代遅れで、でも少しだけ気になる存在かもしれない。
都内でピンク映画館を見かける機会は、もうかなり少ない。だが、完全に昔話になったわけではない。上野や池袋には、今も現役で上映を続ける劇場が残っている。数は減り、表通りの主役ではなくなった。それでも、昭和の大人向け娯楽は、街の片隅でまだ小さく息をしている。
前回の記事では、ピンク映画がどんな文化だったのかを作品側から見た。まだ読んでいない人は、まず「ピンク映画とは何だったのか?昭和の大人向け映画文化」を先に読むと、この先の話がつながりやすい。今回はその続きとして、作品そのものではなく、その作品を上映し続けてきた場所に目を向ける。
ただし、これは気楽なお出かけ記事ではない。成人映画館には独特の空気がある。普通のシネコンとはまるで違うし、注意したい点もある。きれいな懐古だけで包むには少し生々しい。だが、その生々しさごと含めてこそ、この文化は見えてくる。
都内に残る成人映画館は、もうかなり少ない

昔は成人映画館や名画座のような小規模館が、駅前や繁華街にいくつもあった。上野、池袋、新宿、浅草、地方都市の中心部。映画を観る場所が今よりずっと街に近かった時代、ピンク映画館もまた都市の一部だった。
今は違う。成人向けコンテンツは配信でいくらでも見られるし、映画館そのものもシネコン中心になった。わざわざ古い成人映画館に足を運ぶ必然は、実用だけで言えばかなり薄い。だからこそ、今も残っている館は少し不思議な存在になる。
それでも、残っている館には役割がある。上映の場であることはもちろん、昭和から続く大人向け映画館文化の空気を、そのまま建物ごと引き受けているからだ。入口のたたずまい、館内の暗さ、ポスターの貼り方、客席の距離感。そういうものが、普通の映画館とは別の時間をまとっている。
上野には、昭和の大人向け映画館文化がまだ残っている

上野は、東京の中でも時代が折り重なって見える街だ。観光客が歩く昼の顔があり、飲み屋街の夜の顔があり、昔ながらの雑居ビルも残っている。きれいに均された街ではなく、古いものと新しいものが妙に近い距離で混ざっている。
成人映画館文化がまだ上野に残っているのは、ある意味で当然かもしれない。上野は、昭和の名残を完全には切り捨てない街だからだ。ここでは映画館が単体で残っているというより、街の雑多さの一部としてまだ息をしているように見える。
上野オークラ劇場・オークラ劇場2
上野オークラ劇場は、都内でピンク映画館を語るならまず名前が出る場所だ。上野という街の裏通り文化と、ピンク映画というジャンルの歴史がかなり濃い形で重なっている。
ここは単なる古い成人映画館ではない。ピンク映画を今なお上映し続けている代表的な場であり、ジャンルの中心地として語られることも多い。入口の時点で、普通のシネコンとは別の空気がある。明るく開かれた娯楽施設というより、街の中に残った大人向け興行の拠点、といった方が近い。
初めて名前を聞く人は、少し身構えると思う。それで普通だ。むしろ、気軽な観光ノリで消費しない方がこの場所には合っている。上野オークラ劇場を面白がるなら、作品だけでなく、そこにまだ劇場文化が残っていること自体を見た方がいい。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 劇場名 | 上野オークラ劇場・オークラ劇場2 |
| エリア | 上野 |
| 最寄り駅 | 京成上野駅、JR上野駅周辺 |
| 住所 | 〒110-0005 東京都台東区上野2丁目13−6 オークラ劇場 |
| 電話番号 | 03-3831-0157 |
| 公式HP | http://www.okura-movie.co.jp/uenookura/ |
| 初めて行く人向けメモ | 一般的なシネコンとは雰囲気がかなり違う。上映作品、料金、年齢制限、館内ルールを確認してから判断したい |
上野特選劇場
上野特選劇場もまた、上野の成人映画館文化を語る上で外せない名前だ。上野オークラ劇場のすぐ近い文脈で語られることが多く、上野のこの一角に、昭和から続く大人向け映画館文化がまだ密集していることを感じさせる。
上野特選劇場の魅力は、きれいに言い換えにくい。しゃれたミニシアターとは違うし、一般的な映画館の延長でもない。もっと生っぽくて、もっと昭和の街に近い。だからこそ、名前だけで少し圧を感じる人もいるはずだ。
ただ、その圧を含めて時代の残り香でもある。文化遺産というには俗っぽく、俗っぽいというには長く残りすぎている。 そういう中途半端さが、むしろこの手の劇場の本質かもしれない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 劇場名 | 上野特選劇場 |
| エリア | 上野 |
| 最寄り駅 | 京成上野駅、JR上野駅周辺 |
| 住所 | 〒110-0005 東京都台東区上野2丁目13−6 オークラ劇場 上野大ビル |
| 電話番号 | 03-3835-0918 |
| 公式HP | http://www.okura-movie.co.jp/contents/cinema.html |
| 初めて行く人向けメモ | 上野オークラ劇場とあわせて認識されることが多い劇場。営業状況や上映内容を事前に確認しておくと安心 |
池袋には、繁華街の隙間にシネロマン池袋が残っている

池袋は上野とは少し違う。こちらは変化の激しい巨大繁華街だ。大型商業施設、アニメ文化、飲み屋、シネコン、古い雑居ビルがごちゃっと同居している。表の顔はどんどん新しくなるのに、裏の方には妙な古さが残り続ける。
シネロマン池袋は、その古さの側にある。池袋駅近くという便利な場所にありながら、空気はかなり昭和寄りだ。新しい映画館に求められる分かりやすさや明るさよりも、時間の止まった地下入口の感じの方が先に立つ。
シネロマン池袋
シネロマン池袋は、池袋の繁華街に今も残る成人映画館だ。池袋という街の便利さの中に、こういう劇場がまだあるという事実だけで少し面白い。大きなシネコンや若者向けカルチャーのすぐ近くに、別の時間の映画館が残っているからだ。
ここもやはり、普通の映画館の感覚で考えると少しズレる。地下にあること、成人向けであること、館内の雰囲気が独特であること。その全部が、初見には少しハードルになる。ただ、上野とはまた違う意味で、繁華街の中に残った古い大人向け映画館としての存在感がある。
池袋らしいのは、こういう場所が完全には排除されず、雑多なまま街に埋め込まれているところだ。上野が地続きの昭和なら、池袋は再開発の隙間に残った昭和、といった感じかもしれない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 劇場名 | シネロマン池袋 |
| エリア | 池袋 |
| 最寄り駅 | 池袋駅西口北側周辺 |
| 住所 | 〒171-0021 東京都豊島区西池袋1丁目29−2 B1F |
| 電話番号 | 03-3982-9155 |
| 公式HP | http://cineroman.blog.2nt.com/ |
| 初めて行く人向けメモ | 駅近だが一般的な映画館とは雰囲気がかなり違う。上映作品、年齢制限、館内の空気を事前に把握しておきたい |
今はどんな作品が上映されているのか

ここで意外に思う人もいるが、残っている館はただ昔の看板だけをぶら下げているわけではない。実際に上映は続いている。
とくに上野オークラ劇場では、現在も成人向け作品の上映案内が動いている。興行の形としては、昔ながらの3本立てや週替わりの編成が今も見られる。作品の系統も、ピンク映画、ロマンポルノ系、独立系成人映画など、いわゆる一般ロードショーとはまったく別の流れにある。
ここで大事なのは、今の上映作品が全部ただの古い使い回しではないという点だ。旧作や再上映作品もある一方で、新しめの作品や比較的新しい出演者を前面に出した興行も混ざる。つまり今の成人映画館は、懐古の展示場ではなく、細りながらも上映文化が続いている場所だ。
もっとも、作品内容や編成はかなり動く。料金や時間も変わりやすい。気になる場合は、過去記事や口コミをあてにするより、その時点の公式案内を見る方が早い。
ピンク映画の新作は、いまでも撮られている
ピンク映画というと、昭和で終わった文化のように聞こえる。だが実際には、完全に終わってはいない。
もちろん全盛期とは比べものにならない。昔のように量産され、あちこちの劇場で回る時代ではないし、観客の母数もずっと少ない。成人向け映像の主戦場はとっくに劇場からネットへ移っている。それでも、劇場用の新作や準新作が完全に途絶えたわけではない。
OP映画系の作品や関連上映企画を見ると、今も新作が作られ、フェス形式や劇場興行で回っていることが分かる。大手の華やかな映画産業ではないが、細い線で確かにつながっている。消えた文化ではなく、消えかけながらもまだ更新されている文化というのが、いちばん近い見方だろう。
だから今のピンク映画館は、昭和の残骸であると同時に、現在進行形の小さな上映回路でもある。ここが面白い。単なるノスタルジーだけでは片づかない部分だ。
普通の映画館とは違う空気がある

成人映画館を普通の映画館と同じ感覚で考えると、かなり戸惑うと思う。明るくて、清潔で、誰でも入りやすくて、ポップコーン片手に最新作を見る場所。そういうイメージは、ここではあまり通用しない。
上映内容が成人向けであることはもちろんだが、空気そのものが違う。客層も違うし、館内の緊張感も違う。ひとりで来る客が多く、なんとなく独特の距離感がある。初めて入る人が居心地の悪さを覚えるのは、ごく自然なことだ。
その居心地の悪さをただ笑いものにするのは薄いし、逆に哀愁だけで美化するのも違う。こういう劇場は、かつて実際に街の大人向け娯楽として機能していた。そして今は、その名残が少し歪んだ形で残っている。そういう場所だと思った方が近い。
注意しておきたいこともある

ここはきれいごと抜きで書いておいた方がいい。
成人映画館には、純粋に映画を観に来ている人も当たり前の話ではあるが一定数いる一方で、映画鑑賞以外の目的で来る客も場所によっては少なくない。
男性同士の接触を目的にする人がいると言われることもあるし、熟年の異性カップルが露出めいた遊び方をしているという話が出ることもある。劇場や時間帯によって空気は違うが、そうした話がゼロではないのが現実だ。
性的指向や趣味の話を雑に危険視するのではなく、同意のない接触や、周囲に迷惑をかける行為は普通にアウトだと切り分けておく必要がある。映画を観るつもりで入った人が、隣に不自然に座られる、触られる、視線を向けられる、妙な空気に巻き込まれる。そういうリスクがまったくないとは言い切れない。
そういう趣味がない男性が痴漢的な被害や不快な接触を受けるケース、女性や若い来館者が場の空気に強い不安を覚えるケースは、注意喚起として書いておいた方がいい。館内で少しでも違和感があれば無理をしない。席を移る、すぐ出る、スタッフに伝える。その判断を遠慮しない方がいい。
つまり、昭和の名残として眺める面白さはある。だが、それと安全面の注意は別問題だ。ノスタルジーと警戒心を両方持っていた方が、この手の劇場はちょうどいい。
上野と池袋では、残り方が少し違う
上野は、街そのものに昭和の気配がまだ濃い。飲み屋、裏通り、古いビル、観光地のすぐ横に残る雑多さ。その中に成人映画館があると、ある意味では自然に見える。昔から街の中にあったものが、まだそのまま残っている感じだ。
一方の池袋は、変化の激しい繁華街だ。アニメ、商業施設、大型映画館、若者文化の強い街なのに、その足元には古い成人映画館も残っている。このちぐはぐさが、むしろ池袋らしい。上野が地続きの昭和なら、池袋は都市更新から取り残された昭和の断片、といった見え方になる。
どちらも同じ成人映画館ではあるが、街が違うと見え方も違う。上野では街の歴史の一部に見え、池袋では繁華街の余白に見える。その差まで含めると、ただの施設紹介では終わらなくなる。
ただのスポット紹介ではなく、街の記憶として見たい
成人映画館は、いまや多数派の娯楽ではない。文化財として大切にされているわけでもないし、観光名所として整えられているわけでもない。むしろ少し扱いに困る存在だと思う。
だが、街の記憶というのは、きれいなものだけでできているわけではない。人に誇りやすいものだけが文化ではない。少し俗っぽくて、少し気まずくて、でも確かにその時代を支えていた娯楽もまた、都市の歴史の一部だ。
上野オークラ劇場、上野特選劇場、シネロマン池袋は、そういう意味でかなり貴重だ。作品だけではなく、建物の空気、入口のたたずまい、街との距離感まで含めて、昭和の大人向け映画館文化を今に残している。
あとがき
ピンク映画館という言葉には、どうしても少し笑いを含ませたくなる響きがある。怪しいとか、古いとか、場末だとか、そういう雑な言葉で片づけることもできる。
でも実際に残っている劇場を見ていくと、もう少し複雑だ。そこには昭和の裏通り文化があり、映画史の枝道があり、そして現代の東京にまだ消えきっていない大人向け興行の名残がある。少し哀愁があって、少し生々しくて、少し居心地が悪い。その全部が重なって、今の成人映画館になっている。
気軽におすすめしにくい場所なのは確かだ。注意して見ておきたい点もあるし、普通の映画館のつもりで入ると面食らう。けれど、だからこそ見えるものもある。きれいに消えていかない文化の姿というやつだ。
前回の記事でピンク映画そのものの歴史を読んだあとに、今回の劇場の話へ来ると、作品がどこで、どんな空気の中で観られてきたのかが少し立体的に見えてくるはず。上野や池袋に残る赤い灯りは、ただの成人向け看板ではなく、東京の裏側の記憶そのものでもある。


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