女性用大人のおもちゃの歴史|張形から電動グッズまで欲望の道具はどう変わったか

大人のおもちゃと聞くと、乾電池や充電器で動くバイブレーターを思い浮かべる人が多いかもしれません。

しかし、人間が自分の身体とは別の道具で快感を得ようとした歴史は、電気が使われるようになるよりもはるか昔から続いています。

石を削り、革を縫い、角や象牙を磨き、江戸時代には張形をはじめとする女性向けの「笑い道具」が作られました。

その後、動力は人の手から電気モーターへと変わり、現在では振動だけでなく、空気圧や遠隔操作まで選べるようになっています。

今回は男性向けの性具には広げず、女性が自分の身体に使ってきた道具と、女性の快感を目的に作られた道具に限定。

古代の男根形遺物から江戸時代の張形、電動バイブレーター、現在のセルフプレジャーグッズまで、その変化をたどります。

CONTENTS

大人のおもちゃの歴史は電気よりはるかに古い

人間はかなり早い段階から、男根を思わせる形の物体を作っていました。

ただし、古い遺物が細長い形をしているからといって、すべてを女性用の大人のおもちゃと断定することはできません。

祭祀や豊穣祈願の象徴、護符、工具など、性的な用途とは異なる目的で作られた可能性も残るためです。

ドイツのホーレ・フェルス洞窟で見つかった約3万年前の石製遺物は、その代表例としてよく紹介されます。

長さは約20センチあり、男根を思わせる形に整えられ、表面には磨かれた痕跡も確認されています。

一方で、石器加工や革の加工に使われた道具、儀礼に用いられた象徴物だった可能性もあり、性的刺激に使われたとまでは断定されていません。

「3万年前から女性が石のディルドを使っていた」と言い切るのは少々乱暴。

それでも、性器の形を人工物として再現する発想そのものが、先史時代までさかのぼる可能性はあります。

古代ギリシャでは女性が使う人工男根が文献に現れる

先史時代の遺物とは違い、古代ギリシャになると女性が使う人工男根が文章の中へ姿を現します。

古代ギリシャの喜劇や後世の注釈には、革で作られた男根形の道具が登場しました。

一般には「オリスボス」と呼ばれることがありますが、この言葉が常に人工男根だけを意味していたのかについては議論が残っています。

それでも、男性と離れて暮らす女性や女性同士が、革製の人工男根を使うという説明が古い文献に残されているのは確かです。

紀元前411年に上演されたアリストパネスの喜劇『女の平和』にも、戦争で男たちが不在となった女性が、革製の代用品を手に入れられないと嘆く場面があります。

もちろん、喜劇なので笑いを取るための誇張は含まれています。

ただ、観客がその道具の存在をまったく知らなければ成立しにくい冗談でもあります。

少なくとも当時の社会には、女性が人工男根を使うという発想が共有されていたのでしょう。

象牙やガラスで作られた近世ヨーロッパの性具

人工男根は、その土地で手に入れやすく、加工しやすい素材を使って作られてきました。

古代ギリシャでは革製の道具が文献に登場しましたが、近世ヨーロッパでは木、象牙、ガラスなどを加工した品も残されています。

18世紀頃の物とされる象牙製の性具には、精巧な彫刻だけでなく、液体を送り出すための仕掛けを備えた例もあります。

専用の布袋や装飾箱と一緒に保管されていた物もあり、単なる思いつきで削った棒ではなく、職人が技術を使って仕上げた工芸品だったことがうかがえます。

現在のような大量生産品ではないため、誰もが気軽に購入できる物ではありませんでした。

素材を滑らかに磨く技術、壊れにくくする工夫、人目に触れないよう保管するための袋や箱。

女性の欲望を満たす道具は、高級工芸品と秘密の私物の中間に置かれていたのです。

江戸時代の張形は女性のための「笑い道具」

日本で女性用性具の姿がはっきり見えるようになるのが、江戸時代です。

男性器を模した道具は「張形」や「張り形」と呼ばれ、春画や艶本の中に繰り返し描かれました。

性に関する道具を「笑い道具」と呼ぶこともあり、張形以外にも輪や玉、女性器の外側を刺激するための器具などが作られています。

大英博物館が所蔵する1822年から1824年頃の春画シリーズ『閨中女悦笑道具』では、女性の悦びを目的とした複数の道具が紹介されています。

四季になぞらえて商品を並べ、形や使い方、効能らしき説明を添えた、商品案内に近い構成です。

「笑い」という言葉には、性を露骨に言わず、冗談や洒落として包み込む役割もあったのでしょう。

とはいえ、描かれている道具がすべて架空だったわけではありません。

大英博物館には、日本で作られた張形や輪、回転する玉などを箱へ収めた実物の一式も残されています。

江戸の女性たちは、現代人が想像する以上に多様な道具の存在を知っていました。

張形は男性の代用品だけではなかった

張形というと、夫や恋人がいない女性が仕方なく使う代用品のように思われがちです。

実際、男性が不在のときに女性が使う物として説明した文献や図像は残されています。

男性が自由に出入りできない武家屋敷の奥向きや、女性だけで暮らす空間と張形を結び付けた春画も描かれました。

しかし、張形の役割はそれだけではありません。

近世日本の性指南書には、女性の自慰を心身の調整や養生の一環として扱い、張形の使用に触れた物もあります。

春画には女性同士が張形を使う場面も描かれ、男性の身体を再現するだけではない使われ方があったことを示しています。

また、夫婦の性交中に女性の快感を高めるための道具も作られていました。

つまり張形は、男性がいない穴を埋めるだけの代用品ではありません。

女性自身が快感を得るための装置という、現代のセルフプレジャーグッズへつながる考え方が、すでに江戸時代に形になっていたのです。

江戸には性具の商品紹介や販売文化があった

江戸時代後期になると、性具を商品として紹介する図版や、販売に関わる情報も現れます。

性に関する薬や道具を扱う商いが存在し、春画の中には女性向けの商品を季節別に紹介する、小型カタログのような作品も作られました。

性具の形や特徴を絵で見せ、冗談を交えながら使い方を説明する構成です。

現在なら通販サイトの商品一覧や、店頭でもらうパンフレットに近い役割だったのでしょう。

もちろん、春画に描かれたからといって、すべての女性が張形を持っていたとは限りません。

春画には誇張や空想も多く、裕福な町人と庶民、都市部と農村部でも入手しやすさは違ったはずです。

それでも、実物の性具、商品を紹介する図版、使い方を記した文章が残されている以上、江戸の張形文化を絵師の妄想だけで片づけることはできません。

女性の快感は、隠されながらもしっかり商品になっていました。

明治以降、女性用性具は公の文化から隠されていく

江戸時代の春画や笑い道具も、幕府から全面的に公認されていたわけではありません。

出版統制の対象となりながら、貸本や個人間の流通を通して作られ続けていました。

ところが明治時代に入ると、性表現を取り巻く環境は大きく変わります。

政府は西洋諸国と並ぶ近代国家を目指す中で、春画をはじめとする江戸の性文化を、前時代的で公序良俗に反する物として取り締まりました。

出版や販売への規制が強まり、性に関する図像や商品は公の場から次第に遠ざけられていきます。

女性用性具そのものが消滅したわけではありません。

ただし、江戸時代のように有名絵師が女性向けの道具を描き、性指南書や商品案内が広く流通する文化は見えにくくなりました。

性具は笑って眺める文化から、店の奥や秘密の通信販売で買う物へ。

女性の欲望が消えたのではなく、それを表へ出せる場所が狭くなったという変化でした。

電動バイブはヒステリー治療用に発明されたのか

19世紀後半になると、女性用性具の歴史に電気モーターが入り込んできます。

ただし、初期の電動振動器は、現在の小型バイブレーターとはまったく違う大型の機械でした。

筋肉痛や疲労、神経に関する症状などへ振動を加える、医療用や健康用のマッサージ機として開発されています。

20世紀初頭には家庭向けの商品も登場し、新聞や一般雑誌、百貨店のカタログに広告が掲載されました。

対象も女性だけではなく、男性や高齢者を含む、万能健康器具のような売られ方です。

ここで注意したいのが、「医師が女性のヒステリー治療としてバイブレーターを使い、オーガズムを起こしていた」という有名な説。

映画や雑学記事を通して広まりましたが、当時の医師が日常的に女性器を刺激していたと裏付ける証拠は、現在まで十分に確認されていません。

医療用の振動機器が存在したことと、それが女性を絶頂させるために発明されたことは別の話です。

初期のバイブレーターが医療や健康のための機械だったのは事実。

しかし「医師の面倒な手作業を機械化するために作られた」という物語まで、歴史的事実として扱うのは危険です。

1970年代から女性が自分で選ぶ商品へ

電動マッサージ器が女性用の性具として堂々と売られるようになるまでには、長い時間がかかりました。

大きな転換点となったのが、1960年代から1970年代にかけて広がった性解放運動や女性運動です。

女性が自分の身体を知り、自分の快感を自分で決めるという考え方が広がる中で、電動マッサージ器もセルフプレジャーへ積極的に使われるようになります。

1977年にサンフランシスコで創業したGood Vibrationsは、女性が恥ずかしさや恐怖を感じずに商品を選び、性に関する情報を得られる店を目指しました。

薄暗い成人ショップではなく、明るく清潔で、書店や雑貨店のように相談しながら商品を選べる売り場です。

これは、形状やモーターの進化以上に大きな変化でした。

近代以降の性具は、長く男性向けポルノの一部として売られがちでした。

そこから再び、女性が自分のために選ぶ道具へ。

女性用大人のおもちゃの歴史は、商品を誰の視点で作り、誰の言葉で販売するかという歴史でもあります。

現代は振動だけでなく刺激の選択肢を買う時代

現在の女性用大人のおもちゃは、男性器の形を再現するだけの道具ではありません。

外側へ振動を与える物、内部を刺激する物、両方を同時に刺激する物など、目的に合わせて形を選べます。

振動を使わず、空気の圧力変化によって外側を刺激する製品も登場しました。

動力もコンセントから乾電池、充電池へと変化。

防水性や静音性、持ち運びやすさが重視され、スマートフォンから強さや動きを操作できる物もあります。

素材では、表面が滑らかで洗いやすいシリコン製品が広く使われるようになりました。

ガラスやステンレスなど、硬さや温度の変化を楽しむための素材も選ばれています。

体へ直接触れる物だからこそ、表面に傷やべたつきがないか、素材や洗い方が明記されているかを確かめることも大切です。

古代や江戸時代には、手に入る素材を職人が工夫して加工していました。

現代では、肌触り、洗いやすさ、音、充電方法、操作方法、刺激の種類まで設計されています。

何で作るかだけでなく、どのような体験を作るかまで商品化された時代です。

張形から現代グッズまで何が変わったのか

女性用大人のおもちゃの変化を並べると、次のようになります。

時代主な素材・動力道具の特徴社会での位置づけ
先史時代石や木など男根形の遺物は存在するが、性具だったかは断定できない象徴、工具、儀礼など複数の可能性
古代ギリシャ革など女性が使う人工男根が文献や喜劇に登場存在を前提とした冗談や記述が残る
近世ヨーロッパ木、象牙、ガラスなど職人が仕上げた精巧な手工芸品高価な私物として隠して保管
江戸時代鼈甲、革、木など張形や女性向けの複数の笑い道具春画や指南書、商品案内に登場
明治以降従来素材、ゴム、金属など商品は残るが、公の文化から見えにくくなる出版・風俗取締りによって地下化
19世紀末から20世紀初頭金属、電気モーター大型の振動式マッサージ機医療、健康、美容器具として販売
1960年代から1970年代樹脂、金属、乾電池小型化とコードレス化が進む女性運動や性教育の中で再評価
現代シリコン、ガラス、金属、充電池振動、空気圧、装着型、遠隔操作などセルフケアやセクシュアルウェルネス商品へ

最も大きく変わったのは、形よりも女性と道具の関係です。

かつては男性がいないときの代用品、夫婦生活を補う秘具、健康器具など、別の理由を付けなければ存在しにくい道具でした。

現在では、女性が自分の身体を知り、自分に合う刺激を選ぶための商品として売られています。

女性の欲望そのものが新しく生まれたわけではありません。

ようやく、それを隠すための言い訳が少なくなってきたのです。

まとめ

女性用の大人のおもちゃは、電気とともに突然生まれた物ではありません。

男根を思わせる人工物を作る発想は、先史時代までさかのぼる可能性があります。

古代ギリシャでは、女性が使う革製の人工男根が喜劇や注釈の中に登場しました。

近世ヨーロッパでは、象牙やガラスを加工した高価な性具も作られています。

日本の江戸時代には、女性用の張形や笑い道具が春画や性指南書へ描かれました。

張形は男性の代用品だけでなく、女性の自慰や女性同士の性愛にも関係する道具です。

商品を紹介する春画や、実物を収めた箱も残されています。

明治以降は性表現への規制が強まり、女性用性具は公の文化から見えにくくなりました。

19世紀末に登場した電動振動器は、もともと医療や健康のためのマッサージ機です。

医師が女性のヒステリー治療として日常的にオーガズムを起こしていたという説には、確かな裏付けがありません。

1970年代には女性が入りやすい販売店が生まれ、自分のために商品を選ぶ文化が広がりました。

現代の商品は、男性器の再現よりも刺激の種類や使いやすさを重視しています。

張形から最新の電動グッズまで変わらないのは、自分の身体を自分で楽しもうとする女性の欲望。

変わったのは、その欲望を道具へ変える技術と、堂々と語るための言葉なのです。


参考資料

・ウルム博物館「Phallus」
https://www.urmu.de/digitale-sammlung/objekt/phallus-1977-0119-9002-9000

・大英博物館『閨中女悦笑道具』所蔵資料
https://www.britishmuseum.org/collection/object/A_2012-3051-3

・大英博物館 日本の笑い道具一式
https://www.britishmuseum.org/collection/object/A_As1928-0609-1-1-9

・National Gallery of Victoria「Sex and desire between women in Edo’s floating world」
https://www.ngv.vic.gov.au/essay/interpreting-shunga-scroll-sex-and-desire-between-women-in-edos-floating-world/

・Cambridge University Press「Selling Sex Toys: Marketing and the Meaning of Vibrators in Early Twentieth-Century America」
https://www.cambridge.org/core/journals/enterprise-and-society/article/selling-sex-toys-marketing-and-the-meaning-of-vibrators-in-early-twentiethcentury-america/22E463A1B220B723BEFE776F605DB64B

・Georgia Institute of Technology「A Failure of Academic Quality Control: The Technology of Orgasm」
https://hsoc.gatech.edu/publications/pub/5772

・Good Vibrations「About Us」
https://www.goodvibes.com/about/

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CONTENTS