2013年頃、渋谷109周辺の地下街には、妙なあだ名で知られる女性がいた。「パンツさん」、あるいは「パンツ姉さん」。年齢は40歳前後と噂され、痩せた体つきに地味な服装。それなのにスカートだけはやけに短く、通路の片隅に座っている姿が目撃されていた。
当時のネットでは、その外見に加えて、数千円で性的なサービスに応じるという話が広まった。単なる都市伝説のようにも聞こえるが、2013年の掲示板の書き込み、雑誌の収録記事、編集者のTwitter投稿まで残っている。十数年前の渋谷で、いったいどんなふうに語られていた人物なのか。
地下街に座る「パンツさん」はどんな女性だったのか

夜の街にいそうな派手な風貌とは、少し違う。2015年1月の爆サイの投稿では、黒髪が長く、痩せていて、「一昔前の文学少女風」と形容されている。別の投稿でも、同じような服を着ている、ひどくスレンダーだった、といった特徴が繰り返される。
事務員として働いていても不思議ではないような地味な雰囲気と、極端に短いスカート。そんな取り合わせが、かえって強烈な印象を残したのだろう。容姿についてはあくまで当時の目撃談であり、年齢や身体的特徴が確認されたわけではない。
名前の由来は「座るとパンツが見える」こと
2013年5月4日の爆サイ・レス番号5には、下着が見える格好で座る女性として「ぱんつさん」を説明する書き込みがある。そこには「ぱんつねーさん」という呼び名も登場。2015年1月のレス番号77にも、しゃがんで下着を見せていたためだという説明が残る。
つまり「パンツ姉さん」という呼び名は、本人の名前でも職業名でもない。通行人が目にした姿をそのままあだ名にしたものらしい。短いスカートで地下街に腰掛ける、その光景自体が話題の中心だった。
元の書き込み:爆サイ「渋谷ぱんつさん情報」2013年5月4日のレス番号5
あだ名についての後年の証言:爆サイ・2015年1月のレス番号74・77
2013年5月、爆サイに専用スレッドが立つ
パンツさんの名前がネットで話題になった時期を確認するうえで、重要なのが爆サイの専用スレッド「渋谷ぱんつさん情報」だ。スレッド開設日は2013年5月1日。後に知られるTwitter投稿より4か月以上早い。
最初の投稿は、その日のパンツさん情報を交換しようというもの。早くも同日には雨の日にもいたという返信が付き、5月23日にも見かけたという報告が続く。初期のレスはごく短いが、少なくとも書き手たちが同じ通称を知っていたことはうかがえる。
| 日付 | 爆サイに残る話題 |
|---|---|
| 2013年5月1日 | 「渋谷ぱんつさん情報」スレッド開設。同日、目撃を名乗るレス |
| 5月4日 | レス番号5で「あだ名の由来」「痩せた体形」「同じ服装」が説明される |
| 5月23~25日 | 目撃の一言報告や、服装が変わった気がするという書き込み |
| 8月26日 | 雑誌『裏モノJAPAN』に写真付き記事が載ったという投稿 |
| 9月10~13日 | 利用したと自称する人、探しに行くと書く人が登場 |
| 9月18日 | 仙頭正教さんがTwitterで109地下の「パンツさん」に言及 |
| 2014~2015年 | 廃業説と、まだ見たという書き込みが交錯 |
| 2022~2026年 | 思い出話と新たな目撃を名乗る投稿が続く |
元スレッド:爆サイ「渋谷ぱんつさん情報」2013年の最初期レス
当時から「見た人」と「見つからない人」がいた
初期スレッドを読むと、目撃したと書く人がいる一方で、「どこにいるのか」と質問する人も少なくない。5月12日には最近情報がないという声があり、夏にも居場所や服装を尋ねる書き込みが続いた。誰もが知る有名人というより、街の一部の人たちの間で共有された存在だったのかもしれない。
掲示板の性質上、ひとりが複数の書き込みをしている可能性もある。レスの数をそのまま目撃者の人数と数えることはできないが、投稿の日付を追うと、数か月にわたり話題が続いていたことが見えてくる。
迷路亭愛下着が見えるほどのミニスカートなのに、見た目は地味な文学少女風。そりゃあ、一度見たら忘れにくいわよね。
8月には『裏モノJAPAN』でも取り上げられていた
2013年8月26日、爆サイのレス番号42には、書店に並んでいた『裏モノJAPAN』にパンツさんの写真付き記事が載っていたという投稿がある。この書き込みだけなら、雑誌名を出した未確認情報にすぎない。
ところが、電子書籍ストア「COCORO BOOKS」に掲載されている『裏モノJAPAN』の収録目次には、109地下の名物立ちんぼ「パンツさん」を扱った記事が確かに載っている。題名にも109地下の名物として紹介する趣旨が明記されている。
掲載記録:COCORO BOOKS『裏モノJAPAN』収録記事の目次
当時の書き込み:爆サイ・2013年8月26日のレス番号42
雑誌の本文や写真そのものをここで確認したわけではないため、本人への直接取材があったのか、編集部がどこまで事実を確認したのかは不明。ただ、「パンツさん」という名物が後年のネット記事だけで生まれたわけではなく、2013年には商業誌の題材になっていたことは分かる。
なお、今回確認した電子書籍版の配信日は2024年12月5日。これはデジタル版の配信日であり、2013年当時の雑誌記事が書かれた時期とは分けて考える必要がある。
2013年9月18日、仙頭正教さんの投稿でさらに知られる存在に
現在も参照される代表的な投稿が、2013年9月18日、仙頭正教さん(@sento1025)がTwitterに投稿したもの。
「パンツさん」と呼ばれる女性が渋谷にいて、年齢は40歳前後、料金は3,000円、場所は109の地下街と紹介した。月曜と水曜の夜によく現れる、という当時の情報も添えられている。
埋め込みが表示されない場合はこちら:2013年9月18日・仙頭正教さんの元投稿(X)
仙頭さんはアングラ系雑誌『裏モノJAPAN』の編集者として活動してきた人物で、出版社・鉄人社の書籍紹介にもその経歴が掲載されている。匿名掲示板とは異なる、発信者の分かる記録として貴重だ。
人物情報:鉄人社・仙頭正教さんの著書紹介
ただし、雑誌の記事とこの投稿は同じ取材・情報網につながっていた可能性もある。雑誌掲載とTwitter投稿を、完全に別の二人が独立して本人を確認した証拠として数えることはできない。また、投稿に書かれた料金や身体的特徴が、すべて確認された事実というわけでもない。
「3,000円で抜いてくれる」という噂の中身
パンツさんの名前と一緒に語られたのが「3,000円」という金額だ。2013年の仙頭さんの投稿でもその額が挙がり、安さも含めて話題になった。だが、当時の掲示板を読むと、話はそれほど単純ではない。
初回5,000円、常連3,000円という証言
2015年1月7日のレス番号74には、初めての客は5,000円、常連は3,000円だったという投稿がある。同年7月30日のレス番号80も、ほぼ同じような説明。別の後年の記事でも、3,000~5,000円という幅を持たせている。
一方、2013年5月4日のレス番号5は、性的サービスの一部について1,000円からという伝聞を記していた。こうして比較すると、料金は時期・内容・相手によって異なったと語られている。「誰でも必ず3,000円だった」という意味ではなさそうだ。
当時の伝聞:爆サイ・2013年5月4日のレス番号5
後年の料金に関する書き込み:爆サイ・2015年のレス番号74・80
トイレや階段の話は確認できるのか
サービスの場所についても、ホテルだけでなくトイレや階段の踊り場だったという話が、後年の書き込みに出てくる。こうした具体的な内容は都市伝説を印象深くするが、投稿者は匿名であり、契約や利用が実際にあったことを示す客観資料ではない。
利用を自称するレス同士でも内容が食い違う例があるため、武勇伝のような書き込みは話半分に読むのが妥当。パンツさんについて語られた噂と、本人が現実にどのようなことをしていたのかは切り離して考えたい。
109地下街だけではない? 目撃場所の記憶
仙頭さんの投稿と雑誌の収録題名で共通しているのは「109の地下」という場所。一方、時期が下ると、書店に近い階段やマークシティ周辺で見たという話も見られる。
2024年3月の爆サイには、昔パンツさんが座っていた場所として本屋前や地下鉄出口付近を挙げ、今では姿を見ないと書いた人がいた。オトナNAVIも、渋谷の立ちんぼ事情をまとめた記事で、書店付近の階段に座る「パンツ姉さん」に触れている。
後年の目撃場所の回想:爆サイ・2024年3月4日のレス番号89
後年の紹介記事:オトナNAVI「渋谷に立ちんぼはいる?」
同じ女性が時期によって移動していたのか、それとも別の人物の記憶が混ざったのかは分からない。ただ、どの話でも「階段や地下通路の近くに座っていた」というイメージは共通する。移り変わりの激しい渋谷という街で、そんな姿が妙に記憶に残ったのかもしれない。
2014年には廃業説。それでも2015年まで目撃談は続いた
活動の終わりについては、2014年10月17日の爆サイ・レス番号71に「廃業した」とする書き込みがある。しかし2015年1月7日には「今日いた」、2月17日にも見たというレスが付いた。
2015年11月23日のレス番号83は、姿を見かけたものの、客を待っているようには見えなかったという内容だった。これが本当なら、少なくともその時期には、以前と様子が違っていた可能性がある。もっとも、いずれも本人確認の取れていない匿名投稿だ。
当時の書き込み:爆サイ・2014年の廃業説と2015年の目撃談(レス番号71~83)
そして2015年11月の投稿を最後に、スレッドは2022年6月まで長い空白に入る。2013年には「あの人を今夜見たか」という情報交換の場所だった掲示板が、やがて過去を振り返る場所へ変わっていく。
10年以上たっても消えない、ネット上の「パンツ姉さん」


2023年1月には、かつて何度か利用したと主張する人が「もう10年くらい前になるのか」と書き込んでいる。あの頃は現在進行形だった話が、この時点ではすっかり昔話になっていたわけだ。
2024年7月公開のOnenight-Storyの渋谷特集でも、「伝説の立ちんぼ」としてパンツさんが紹介される。ここでも引用されているのは、2013年の仙頭さんのTwitter投稿。後年のサイトが同じ情報を取り上げることで、昔の呼び名が再び検索に引っかかるようになっている。
後年の紹介記事:Onenight-Story・2024年7月26日公開の渋谷特集
ただし、新しいサイトに書かれたからといって、新たな目撃や取材が加わったとは限らない。2013年の情報を2024年のページで見つけた場合も、証言の時点はあくまで2013年である。
2026年現在、パンツさんはどうしているのか
今も同じ女性を見かけるという投稿は、実は残っている。2024年3月には「もういない」と「まだ現役」という正反対のレスが並び、同年8月には買い物中に見かけたという人がいた。2025年8月には電車内で見たという投稿もある。
2026年3月にも久しぶりにすれ違ったという書き込みがあり、4月には「もう立ちんぼはしていない」という趣旨の投稿が登場。7月にも見かけたと主張するレスが付いた。
| 時期 | 書き込みの内容と注意点 |
|---|---|
| 2024年3月 | 以前の場所から消えたという投稿に対して、まだ活動しているとの反論 |
| 2024年8月 | 買い物中に目撃したという投稿。本人確認できる資料はない |
| 2025年8月 | 公共交通機関で見たという匿名の話 |
| 2026年3月 | 久しぶりにすれ違ったという投稿 |
| 2026年4月 | 現在は立ちんぼをしていないという投稿 |
| 2026年7月 | 街中で見かけたという新たな投稿 |
近年の匿名投稿:爆サイ「渋谷ぱんつさん情報」2024~2026年のレス番号89~115
これらはすべて未確認の証言だ。2013年当時の女性と同一人物だったのか、写真などによる検証はなく、現在も営業していることを示す記録にもなっていない。そもそも、すれ違っただけの姿を同一人物と判断できるのかという問題もある。
2026年現在の暮らしや活動状況については、確かなことは分からない。かつての名物として思い出を語り合うことと、実在する個人の現在を追跡することは別の話だ。
なぜ「パンツ姉さん」は渋谷の伝説になったのか
パンツさんについて残った記録の面白さは、強烈なあだ名だけではない。2013年5月には専用スレッドがあり、8月には商業誌に載ったという話が出て、9月には編集者がTwitterで紹介した。匿名掲示板、雑誌、SNSという当時のメディアをまたいで名前が広がっていた。
見た人は短い目撃談を書き、知らない人は場所や正体を尋ね、経験を名乗る人は料金や内容を語る。そこに後年の紹介記事が加わることで、確かな部分と曖昧な部分が一緒になって受け継がれた。名前は具体的なのに、本人のことはほとんど分からない。その妙な空白も、長く噂が続いた理由だろう。



2013年には「今日いた?」と書き込まれていた人が、十数年後には「あの人どうしてる?」と語られている。渋谷の風景も、ずいぶん変わったわね。
あとがき
2013年のスレッドと雑誌の収録題名が残り、当時から「パンツさん」と呼ばれる女性が渋谷の一部で知られていたことは十分にうかがえる。下着が見えるほどのミニスカートで地下街に座っていたという、奇妙に具体的な記憶。そこへ「3,000円」という金額と、真偽不明の体験談が重なり、いつしか渋谷の裏名物として語り継がれた。
現在の姿を裏付けるものはない。それでも2013年5月に立ったスレッドは、2026年になっても新しい書き込みを受け付けている。すでに一人の女性の噂というより、当時の渋谷を覚えている人たちの記憶の置き場になっているのかもしれない。



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