売春という言葉はひとつでも、国によって扱いはかなり違う。
オランダやドイツのように、売春宿や事業者を許可制にして管理する国がある。ニュージーランドやベルギーのように、成人同士の自発的なセックスワークを刑罰の外に出し、労働や安全の問題として扱う国もある。
一方で、日本やタイのように、法律上は売春を禁じながら、実際には風俗店、マッサージ店、バー、歓楽街などの形で巨大な市場が残っている国もある。
さらに、スウェーデンやフランスのように「売る側ではなく買う側を罰する」国、中国や韓国、UAEのように売る側・買う側の両方が処罰対象になる国もある。
この記事では、世界の売春事情を「合法の国」「黙認・グレーの国」「厳罰の国」に分けて整理していく。
まず大事なのは「合法」と「非犯罪化」は別物

売春の制度を見る時は、まずここを分けた方がいい。
合法化は、国や自治体が売春を制度の中に入れて、許可制、登録制、営業区域、健康相談、税金などで管理する形。ドイツ、オランダ、スイスのような国が代表例になる。
非犯罪化は、成人同士の自発的なセックスワークを刑罰の対象から外し、一般の労働、安全、福祉、搾取防止の問題として扱う考え方。ニュージーランドやベルギーがよく挙げられる。
買春処罰型は、売る側は原則として罰せず、買う側を処罰する方式。スウェーデン、ノルウェー、フランスなどで採用されている。
全面禁止型は、売る側、買う側、仲介、場所提供などを広く処罰する形。中国、韓国、UAEなどが分かりやすい。
そして一番ややこしいのが、法律上は違法でも、実態として歓楽街や風俗産業が広く存在する国。日本やタイはこのタイプに近い。
合法・規制型の国

オランダ|売春宿を合法化し、自治体が管理する国
オランダは、売春合法国として最も有名な国のひとつ。
2000年に売春宿禁止を撤廃し、売春産業を自治体の許可制で管理する方向に切り替えた。合法の売春は、窓越しのいわゆる飾り窓、売春宿、エスコート、マッサージ店、レッドライト地区などで行われる。自治体が営業許可を出し、未成年者や人身取引、強制売春がないかを監視する仕組み。
ただし、オランダ=自由に何でもOKではない。
政府は現在も、強制売春、搾取、暴力、不衛生な環境などを問題視している。新しい規制案では、セックスワーカーと事業者の許可制、最低年齢21歳、無許可営業への罰則などが検討されている。
つまりオランダは「自由放任」ではなく、「存在を認めたうえで行政が管理する国」。
ドイツ|登録・健康相談・営業許可で管理する国
ドイツも売春が合法化されている国として知られている。
現在の特徴は、2017年施行の「売春保護法」。セックスワーカーは登録が必要で、登録時には権利や義務、相談窓口などの説明を受ける。登録証はドイツ全域で有効だが、州ごとに追加ルールがある場合もある。21歳以上は登録証が2年有効、21歳未満は1年。実名ではなく別名の証明書を出せる仕組みもある。
登録前には健康相談も必要。相談内容は、性感染症、避妊、妊娠、アルコールや薬物のリスクなど。21歳以上は12か月ごと、21歳未満は6か月ごとに健康相談を受ける必要がある。
ドイツは、かなり制度化された合法型。
ただし、登録制には「身バレの不安」「登録を嫌って地下化する人が出る」という批判もある。
ニュージーランド|非犯罪化の代表例
ニュージーランドは、売春を「合法ビジネス」として派手に管理するというより、成人同士の自発的なセックスワークを刑罰から外した国。
2003年の売春改革法により、商業的性的サービスに関する契約は、公序良俗を理由に違法・無効とはされないと定められた。さらに、旧来の売春宿経営や売春収入で生活することなどを犯罪にしていた規定も廃止されている。
ニュージーランド型は、セックスワーカーの安全、通報のしやすさ、労働上の権利を重視するモデルとして語られることが多い。
「売春を推奨する」というより、「隠しても消えないなら、危険な環境を減らす」という発想に近い。
ベルギー|労働契約まで認めた新しいモデル
ベルギーはかなり新しい動きがある国。
2022年に成人の自発的なセックスワークを刑事法の対象から外し、2024年にはセックスワーカーが雇用契約を結び、社会保障や労働上の保護を受けられる制度を作った。2024年12月に施行された法律では、病休、出産手当、年金、健康保険、失業給付などが認められ、労働者が客や行為を拒否する権利も明記されている。
ベルギーの特徴は、単に「売春を罰しない」だけではなく、「労働として扱う」方向へ踏み込んだ点。
ただし、すべての形態がカバーされるわけではない。自宅営業やストリップ、ポルノなどは制度の範囲外になる部分があり、自治体の規制が厳しくなれば、結果的に働ける場所が狭まるという懸念も出ている。
スイス|合法だが州・都市ごとの規制が大きい
スイスでは、一定条件のもとでセックスワークは合法とされる。ただし、連邦全体で完全に同じルールというより、州や都市ごとの規制が大きい。路上売春、営業場所、許可、登録、外国人の就労条件などは地域差がある。スイス当局系の資料でも、スイスでは条件付きでセックスワークが合法であることが示されている。
スイスは「合法だが、場所と資格をかなり細かく見る国」と考えると分かりやすい。
アメリカ|ほぼ違法、ただしネバダ州の一部だけ例外
アメリカは自由の国というイメージがあるが、売春に関してはかなり厳しい。
基本的に売春は全米で犯罪。ただし、ネバダ州の一部の郡では、許可を受けた売春宿に限って合法営業が認められている。ラスベガスがあるクラーク郡では違法なので、「ラスベガス=合法売春の街」というイメージは正確ではない。
アメリカは「一部例外を除いて禁止」の国。
黙認・グレー型の国

日本|売春は禁止だが、風俗産業は別枠で存在する
日本はかなり独特。
売春防止法では、「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」を売春と定義している。そして第3条で「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない」としている。
ただし、日本の売春防止法でいう売春は、あくまで「不特定の相手との性交」が中心。
そのため、ソープランド、デリヘル、店舗型・無店舗型の性風俗、映像送信型性風俗などは、風営法上の「性風俗関連特殊営業」として届け出や規制の対象になっている。警察庁の資料でも、店舗型性風俗特殊営業、無店舗型性風俗特殊営業、映像送信型性風俗特殊営業などの届出数が統計として扱われている。
つまり日本は建前としては「売春禁止」。
しかし実態としては、性交そのものを店が売る形ではなく、性的サービス産業として巨大な市場が成立している。
ここが海外から見るとかなり分かりにくい。
タイ|法律上は違法、実態としては巨大な歓楽産業
タイも、世界的には「夜遊びの国」というイメージを持たれやすいが、法律上は売春が合法ではない。
1996年の売春防止・抑制法では、売春、売春施設、勧誘、広告、周旋、管理などが処罰対象になっている。ILOの法令データベースでも、タイの同法は公共の場所や売春宿での売春を禁じ、性的サービスの提供に罰金を設けていると整理されている。
それでも、バンコク、パタヤ、プーケットなどには、バー、ゴーゴーバー、マッサージ店、カラオケ、クラブなど、観光客向けの性産業が広く存在してきた。
タイは「合法の国」ではない。
正確には「違法だが、観光産業・歓楽街・警察運用の中で長くグレーに存在してきた国」。
イギリス|個人の売春自体は違法ではないが、周辺行為が広く規制される
イングランドとウェールズでは、個人が性サービスを売ること自体は直ちに違法ではない。ただし、路上での勧誘、売春宿の管理、売春から利益を得る行為、搾取的な管理などは処罰対象になる。英国検察庁のガイダンスでも、1人の女性が単独で使う家は売春宿に当たらないが、複数人が使う場所は売春宿と扱われ得ると説明されている。
この制度だと、働く側は完全に違法ではない一方で、安全のために複数人で場所を借りると「売春宿」扱いされる可能性がある。
イギリスは「合法」とも「全面禁止」とも言い切りにくい。
単独で売ることは可能でも、営業形態を作ると犯罪に近づく国。
買春処罰型の国

スウェーデン|買う側を罰する北欧モデルの出発点
スウェーデンは、いわゆる「北欧モデル」の代表例。
売る側ではなく、買う側を処罰する。スウェーデン政府の説明では、性的サービスの購入は違法で、スウェーデン刑法第6章第11条により、罰金または最長1年の拘禁刑の対象になる。第三者が支払った性的サービスを利用した場合も対象。
2025年には、対面の売春だけでなく、オンラインで特定の性的行為を有料で行わせる行為にも規制を広げている。スウェーデン政府は、2025年7月1日から刑法改正が施行されたと発表している。
スウェーデンの考え方は、「売春は貧困や搾取の結果であり、需要を作る買い手を罰する」というもの。
ノルウェー|買春禁止で人身取引対策に結びつける
ノルウェーも買春を犯罪化している国。
2009年1月1日に性的サービスの購入禁止法が施行され、人身取引対策の一部として位置付けられている。ノルウェー政府関連資料でも、性的サービスの購入は人身取引対策のために犯罪化されていると説明されている。
売る側を単純に処罰するより、需要側を抑えることで市場を縮小させる考え方。
フランス|2016年から買春側を罰する方向へ
フランスは2016年に、売春客を処罰する制度へ移行した。
欧州人権裁判所の資料でも、フランス刑法上「性的関係を購入する犯罪」が作られたことが説明されている。買春側には罰金が科され、再犯ではより重い罰金になる。
フランスも、売春そのものを「個人の自由」ではなく、搾取や人身取引、女性への暴力の問題として扱う色が濃い。
厳罰・全面禁止に近い国

中国|売る側も買う側も拘留・罰金
中国では、売春も買春も処罰対象。
中国の治安管理処罰法では、売春または買春をした者は10日以上15日以下の拘留、さらに5,000元以下の罰金を科され得る。情状が軽い場合でも、5日以下の拘留または500元以下の罰金となる。公共の場での勧誘も処罰対象。
中国は「売る側も買う側もアウト」の分かりやすい禁止型。
ただし、実態としては都市部のマッサージ店、KTV、クラブなどを通じた地下市場があるとされ、摘発と潜在化を繰り返している。
韓国|売買春そのものが処罰対象
韓国では、性売買そのものが法律で処罰対象になっている。
韓国の「性売買斡旋等行為の処罰に関する法律」では、性売買をした者は1年以下の懲役、300万ウォン以下の罰金などの対象になる。斡旋を業として行う者には、より重い罰則が用意されている。
韓国も、買う側・売る側・斡旋側をまとめて取り締まる方向。
ただし、実際にはかつての赤線地帯、ルームサロン、マッサージ店、出張型など、形を変えた性産業が問題視され続けてきた。
UAE|売春サービス提供者も客も重い罰則
UAEでは売春は違法。
オーストラリア政府の渡航情報では、UAEで売春は違法であり、売春サービスを提供する人、売春サービスの客の両方に重い罰則が適用されると明記されている。カナダ政府の渡航情報でも、売春への関与は違法で、重い罰金または拘禁刑の対象になると説明されている。
UAEは、観光地としてはドバイなどが華やかに見える一方で、性に関する法律はかなり保守的。外国人であっても、逮捕、拘禁、国外退去のリスクがある。
ざっくり国別に見るとこうなる」

| 国・地域 | 法律上の扱い | 実態の特徴 |
|---|---|---|
| オランダ | 合法・許可制 | 飾り窓、売春宿、エスコートなどを自治体が管理 |
| ドイツ | 合法・登録制 | セックスワーカー登録、健康相談、事業者規制 |
| ニュージーランド | 非犯罪化 | 成人の自発的なセックスワークを刑罰から外す |
| ベルギー | 非犯罪化+労働保護 | 雇用契約、社会保障、拒否権などを制度化 |
| スイス | 合法・地域規制 | 州や都市ごとに登録・営業区域などが違う |
| アメリカ | 原則違法 | ネバダ州の一部郡のみ許可売春宿が合法 |
| 日本 | 売春禁止+風俗営業は別枠 | 性交を売る形は違法、性風俗産業は届け出制で存在 |
| タイ | 違法 | 歓楽街・観光地で実態として巨大市場が残る |
| イギリス | 個人売春は違法ではないが周辺行為を規制 | 売春宿管理、勧誘、搾取的管理などが処罰対象 |
| スウェーデン | 買春処罰型 | 売る側ではなく買う側を罰する北欧モデル |
| ノルウェー | 買春処罰型 | 人身取引対策の一部として買春を犯罪化 |
| フランス | 買春処罰型 | 2016年以降、客側を処罰する方向へ |
| 中国 | 売る側・買う側とも処罰 | 拘留・罰金の対象 |
| 韓国 | 売る側・買う側とも処罰 | 性売買そのものと斡旋を処罰 |
| UAE | 違法・重罰 | 提供者も客も処罰対象、外国人もリスクあり |
なぜ国によってここまで違うのか

売春をどう扱うかは、その国が何を問題の中心に置くかで変わる。
オランダやドイツは、「売春は現実に存在する。ならば、隠すより管理した方がよい」という考え方が土台にある。営業許可、登録、健康相談、税金、労働環境の監視によって、違法組織や人身取引を減らそうとする。
ニュージーランドやベルギーは、もう少しセックスワーカー側の権利に寄った考え方。犯罪化すると通報できない、医療や福祉につながりにくい、暴力を受けても隠れるしかない。だから刑罰から外し、労働や安全の問題として扱う。
スウェーデンやフランスは逆で、売春を「自由な取引」ではなく、貧困、移民問題、性搾取、男女格差の結果として見る。そのため、売る側ではなく買う側を罰する。
中国、韓国、UAEは、社会秩序、道徳、治安、人身取引対策の観点から、売買春そのものを処罰する。
日本やタイは、そのどれにもきれいに入らない。
法律上は禁止しながら、実態としては風俗・歓楽街・観光産業の中で市場が残っている。
合法化すれば安全になるのか

合法化すればすべて解決、というほど単純ではない。
オランダやドイツのように制度化しても、無許可営業、外国人労働者、人身取引、搾取、地下化の問題は残る。合法店で働ける人と、制度に入れない人の差も出る。
一方で、全面禁止にすれば市場が消えるわけでもない。
禁止された市場は、マッサージ店、個人営業、SNS、出張型、地下クラブなどに移る。そうなると、暴力や搾取を受けた時に警察へ行きにくくなる。
買春処罰型も評価は分かれる。
需要を減らすという考え方は分かりやすいが、客が隠れることで交渉時間が短くなり、働く側の安全確認が難しくなるという批判もある。
結局、どの制度にも欠点がある。
観光客が一番勘違いしやすい国

勘違いされやすいのは、タイ、日本、アメリカ、UAEあたり。
タイは夜の街のイメージが先行するが、売春は法律上違法。
日本も風俗店が多いが、売春防止法上の売春は禁じられている。
アメリカは自由なイメージがあるが、合法なのはネバダ州の一部だけ。ラスベガスは合法ではない。
UAEはドバイの派手な観光地イメージと違って、売春への罰則は重い。
「街にあるから合法」とは限らない。
世界の売春事情で一番危ない勘違いはここ。
あとがき
世界の売春事情を見ると、「合法の国」「違法の国」と単純には分けられない。
オランダやドイツは、売春を消せない現実として制度に入れた。
ニュージーランドやベルギーは、セックスワーカーの権利と安全を重視した。
スウェーデンやフランスは、買う側を罰して需要を減らそうとした。
中国、韓国、UAEは、売る側も買う側も処罰する方向を取っている。
日本やタイは、法律と現実のあいだに大きなズレがある。
どの国の制度にも、理想と現実の差がある。
売春を合法化しても搾取は消えない。禁止しても市場は消えない。買う側を罰しても、地下化の問題は残る。
だから売春問題は、道徳だけでも、自由だけでも、治安だけでも語り切れない。
その国が、性、労働、貧困、移民、観光、治安をどう扱っているか。
売春事情を見ると、その国のきれいごとではない部分がかなり見えてくる。


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