動物の世界で「同性愛行動」と聞くと、少し意外に感じる人もいるかもしれない。
生き物の性行動は、子孫を残すためのもの。そう考えると、同性同士の行動は一見すると説明しにくい。繁殖につながらないなら、なぜそんな行動が残っているのか。人間の価値観をそのまま持ち込むと、ここで話が少しややこしくなる。
ただ、実際の動物の行動を見ていくと、性行動は繁殖だけに使われているわけではない。仲間との関係を作る。争いをやわらげる。群れの中で立場を確認する。子育てのパートナーになる。そういう場面で、同性間の行動が見られることがある。
この記事では、動物にも同性愛行動はあるのかという話を、単なる珍現象としてではなく、生物界にある「同性間行動」の一つとして見ていく。
動物にも同性愛行動はあるのか

結論から言うと、動物にも同性間の性的行動はある。
ただし、人間の「同性愛」という言葉をそのまま当てはめると、少しズレが出る。人間の場合、同性愛は性的指向や恋愛感情、自己認識とも結びつく。自分が誰に惹かれるのか、どんな相手と関係を築きたいのかという、かなり内面的な話になる。
一方、動物の場合は、本人にインタビューできない。だから研究では、基本的に観察できる行動をもとに語ることになる。
たとえば、同性同士で交尾に似た行動をする。体をこすり合わせる。求愛のような行動を取る。長く一緒にいる。ペアを組む。卵や子どもの世話をする。こうした行動をまとめて、同性間の性的行動、同性間行動、同性愛的行動などと呼ぶことがある。
ここで大事なのは、「動物にも人間と同じ意味の恋愛がある」と言い切る話ではないこと。そこまで踏み込むと、証明が難しい。
ただし、「同性同士の性的・親密な行動が自然界で見られるか」と聞かれれば、答えははっきりしている。
見られる。しかも、決して一種類や二種類だけの変わり種ではない。
なぜ繁殖につながらない行動が残るのか

性行動は繁殖のためだけにある。そう思うと、同性間行動はかなり不思議に見える。
だが、動物の性行動は案外いろいろな役割を持っている。繁殖に直結しない性行動は、自然界でも珍しくない。
たとえば、群れで暮らす動物にとって、仲間との関係は生存に関わる。エサ場を共有する。敵から身を守る。ケンカの後に関係を修復する。順位争いをこじらせない。そういう場面では、ただ強いだけでは群れがまとまらない。
そこで、体の接触や性的な行動が、関係づくりの道具になることがある。
人間でも、握手、抱擁、肩を組む、近い距離で話すといった行動には、相手との距離を縮める意味がある。動物の場合、その延長線上に性的行動が混ざることがあると考えると、少し分かりやすい。
もちろん、すべての同性間行動に同じ意味があるわけではない。
考えられる役割は、かなり幅広い。
- 仲間との結びつきを強める
- ケンカや緊張をやわらげる
- 群れの順位関係を調整する
- 性行動の練習になる
- 異性をめぐる競争の中で使われる
- 子育てや巣作りのペア関係につながる
- たまたま起きた行動が、結果として関係維持に役立つ
つまり、同性間行動は「繁殖しないから無意味」とは簡単に言えない。むしろ、群れで生きる動物ほど、繁殖以外の意味を持ちやすい。
ボノボは性行動をコミュニケーションに使う

動物の同性間行動でよく名前が出るのがボノボだ。
ボノボはチンパンジーに近い類人猿で、人間にもかなり近い動物として知られている。ボノボの特徴は、性行動が繁殖だけでなく、社会的なやり取りにかなり深く入り込んでいること。
特にメス同士の接触行動はよく知られている。群れの中で緊張が高まったとき、エサをめぐって競争が起きそうなとき、新しく関係を作るときなどに、同性間の性的行動が見られる。
ここで面白いのは、性行動が単なる発情や繁殖の問題ではなく、関係調整の役割を持っている点。
ボノボの社会では、メス同士のつながりがかなり重要になる。血縁関係が薄い相手とも協力し、群れの中で立場を作っていく。その中で、同性間の性的行動が、信頼や寛容さを示すサインとして働いている可能性がある。
いわば、ボノボにとって性は「子どもを作るためだけの行動」ではない。
仲直り、確認、距離の調整、協力の下準備。そういう社会的な道具としても使われている。
人間の感覚で見るとかなり濃い話に見えるが、ボノボ側からすれば、群れをうまく回すための自然なふるまいの一部なのかもしれない。
イルカのオス同士にも強い結びつきがある

イルカも、同性間行動の話でよく登場する動物だ。
特にバンドウイルカのオス同士は、かなり強い関係を作ることがある。複数のオスが同盟のような関係を組み、協力して行動する。エサ、移動、メスをめぐる競争、外敵や他グループとの関係など、イルカの社会は思っている以上に複雑だ。
その中で、オス同士の性的な行動や親密な接触が見られることがある。
これを単に「ふざけている」「間違えた」と片づけると、イルカの社会性を見落としてしまう。イルカにとって、同性同士の行動は、同盟関係を作ったり、維持したりする中で意味を持っている可能性がある。
オス同士の関係が強いほど、協力して動きやすい。協力できるオスは、群れの中で有利になることもある。
つまり、同性間行動は繁殖そのものではなくても、間接的に生き残りや繁殖のチャンスに関わる場合がある。
このあたりが、生き物の性行動のややこしくて面白いところだ。
繁殖しない行動なのに、長い目で見ると生存戦略の中に組み込まれている可能性がある。
鳥の世界では同性ペアが子育てすることもある

鳥の世界では、同性ペアが巣を作ったり、卵やヒナの世話をしたりする例がある。
有名なのはアホウドリの仲間。ハワイのコロニーでは、メス同士のペアが長く観察されてきた。アホウドリはもともと長期的なペア関係を作る鳥で、一度ペアになると同じ相手と繁殖期を過ごすことが多い。
では、メス同士のペアはどうやって子育てするのか。
片方、または両方のメスが別のオスと交尾し、産んだ卵をメス同士のペアで育てる。人間の家族観で見ると変則的に見えるが、自然界では「その状況で育てられるなら育てる」という現実的な形でもある。
もちろん、異性ペアと比べて繁殖成功率が低くなる場合もある。同性ペアだから万能という話ではない。
それでも、ペアを組まずに繁殖機会を失うより、メス同士で協力して巣を守り、ヒナを育てるほうが有利な場面もある。特に、性比が偏っている環境では、同性ペアが現実的な選択肢になることがある。
動物の世界は、思っているほど教科書通りではない。
オスとメスが出会って、交尾して、子育てして終わり。そんな単純なパターンだけでは回っていない。
ペンギンやフラミンゴの同性ペアが話題になる理由

同性ペアの動物として、一般的に話題になりやすいのがペンギンやフラミンゴだ。
動物園や水族館では、オス同士のペンギンがペアのように行動したり、卵の世話をしたりする例が紹介されることがある。フラミンゴでも、オス同士のペアが卵を温め、ヒナを育てた例が話題になった。
こうした話が広まりやすいのは、見た目として分かりやすいからだ。
鳥はペアを作る。巣を作る。卵を温める。ヒナにエサを与える。行動の流れが人間にも見えやすい。だから、同性ペアの話としてニュースになりやすい。
ただし、ここでも注意したいのは、動物園の例だけを見て「自然界ではこうだ」と単純化しないこと。
飼育下では、個体数、性比、空間、繁殖管理など、野生とは違う条件がある。同性ペアが生まれやすい環境になることもある。
それでも、鳥に同性ペアや共同子育てのような行動が見られること自体は、かなり興味深い。少なくとも、動物のペア関係が「必ずオスとメスだけ」とは言い切れないことを示している。
霊長類では同性間行動がかなり広く見られる

霊長類、つまりサルや類人猿の仲間では、同性間行動がかなり広く観察されている。
マカク、ボノボ、チンパンジー、ゴリラ、キツネザルなど、さまざまな霊長類で報告がある。行動の形は種によって違う。オス同士のマウンティング、メス同士の接触、短期的なペアのような関係、群れの緊張を下げる行動など、かなり幅がある。
近年の研究では、霊長類の同性間行動は、厳しい環境や複雑な社会構造と関係している可能性も指摘されている。
たとえば、食べ物が限られる。捕食者の危険がある。群れの順位が複雑。寿命が長く、長期的な関係が重要になる。そうした条件の中では、仲間との関係をうまく保つことが生存に関わる。
このとき、同性間行動が社会的な接着剤のように働く可能性がある。
もちろん、「サルがそうだから人間も同じ」と短絡するのは危うい。人間には文化、言語、恋愛観、倫理、自己認識がある。動物の行動と人間の性的指向をそのまま重ねることはできない。
ただ、少なくともこうは言える。
同性間の性的行動は、人間だけに突然現れた奇妙な例外ではない。生物界の中に、かなり広く存在する行動の一つだ。
動物の同性間行動をどう見るか

動物の同性間行動を考える時、少しややこしいのは「人間の言葉」をどこまで使うかという点だ。
同性愛、恋愛、夫婦、浮気、家族。こういう言葉は分かりやすい。読者にも伝わりやすい。ただ、そのまま動物に当てはめると、少し話がズレる。
たとえば、アホウドリのメス同士のペアは、子育てという形で見るとかなり分かりやすい。一緒に巣を守り、卵やヒナの世話をする。人間の感覚では「家族」に近く見える。
一方で、ボノボやマカクの同性間行動は、群れの中の緊張をやわらげたり、関係を調整したりする役割が大きい。こちらは恋愛というより、社会の中で距離を整える行動として見た方が近い。
イルカのオス同士の結びつきも、単純に恋愛と呼ぶより、長く続く相棒関係や同盟に近い。協力して動くための関係づくりとして見た方が、動物側の事情に近づける。
つまり、同性間行動といっても中身は一つではない。
- ペアを作る行動
- 子育てに関わる行動
- 群れの緊張を下げる行動
- 仲間との関係を強める行動
- 同盟や協力につながる行動
- 性行動の練習や順位確認に近い行動
見た目は似ていても、種によって意味は変わる。
だから、動物の同性間行動を見て「人間の同性愛もこれと同じ」と言い切るのは雑になる。逆に「動物だから人間とは無関係」と切り捨てるのも、少しもったいない。
動物の話から分かるのは、同性同士の性的・親密な行動が自然界で実際に見られるということ。そして、性行動が繁殖だけではなく、関係づくりや社会の維持にも使われる場合があるということ。
そこまで見れば十分だ。
人間の恋愛や性的指向は、人間の文化、感情、社会制度の中で考える必要がある。動物の例は、それを正当化するための材料でも、否定するための道具でもない。
ただ、生き物の性が思っているよりずっと複雑で、繁殖だけに閉じていないことは教えてくれる。
あとがき
動物にも同性愛行動はあるのか。
答えは、ある。
ただし、それは人間の恋愛や性的指向とまったく同じものではない。動物の場合、観察できるのはあくまで行動だ。同性同士で接触する。ペアのように過ごす。子育てする。群れの中で関係を保つ。そうした行動が、いくつもの種で見られている。
面白いのは、そこに一つの分かりやすい答えがないところ。
ある動物では子育てに関わり、ある動物では仲間との関係づくりに関わる。別の動物では、同盟や順位、緊張の調整に近い意味を持つこともある。
性行動は、子孫を残すためだけのものではない。
少なくとも動物の世界を見ていると、そう言い切るには少し狭い。繁殖、協力、競争、親密さ、偶然、環境。いろいろなものが絡み合った結果として、同性間行動もそこに現れる。
人間の感覚で見ると、少し奇妙に見える。
でも、生き物側からすれば、それも群れの中で生きるための行動の一つなのかもしれない。
自然界は、こちらが思っているほど整理されていない。
だからこそ、妙に生々しくて、妙に面白い。


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