春画とは何か?江戸時代の人々が楽しんだ大人の浮世絵

江戸時代の浮世絵というと、まず思い浮かぶのは歌舞伎役者、美人画、名所絵、富士山、東海道あたりかもしれない。

ただ、その裏側にはもうひとつ、かなり大きなジャンルがあった。

春画である。

名前だけ聞くと、いかにも艶っぽい響きがある。実際、春画は大人向けの絵であり、男女の営みや色恋を描いた作品が中心になる。ただし、現代の感覚で単純に「昔のポルノ」と片づけてしまうと、少し見え方を間違える。

春画には、笑いがあり、誇張があり、風俗があり、当時の暮らしがあり、そして絵師たちの技術もある。

江戸の人々にとって春画は、こそこそ隠れて楽しむだけのものではなく、ときに洒落として、ときに嫁入り道具として、ときに浮世絵文化の一部として受け止められていた。

もちろん大人向けの題材ではある。けれど、春画を見ていくと、江戸時代の人々が性をどう笑い、どう描き、どう生活の中に置いていたのかが、妙に生々しく見えてくる。

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春画とは何か

春画とは、主に男女の性愛や色恋を描いた日本の絵画・版画のこと。

特に江戸時代には、浮世絵の広がりとともに多く作られた。木版画として刷られたものもあれば、肉筆画のように一点ものとして描かれたものもある。大英博物館の春画関連ページでも、春画は絵画、巻物、版本、木版画など複数の形で残っていることが確認できる。

春画は「笑い絵」とも呼ばれた。

この呼び名がかなり大事で、春画はただ性的な場面を描いただけのものではない。大げさな表情、ありえないような構図、滑稽なやり取り、人物同士の会話や文字による小ネタなど、笑いの要素も濃い。

現代の感覚だと、性の表現は「いやらしいもの」「隠すもの」として見られがちだが、江戸の春画には、もう少しあっけらかんとした空気がある。

人間はそういうことをする。
でも、それを真面目くさって描くだけでは面白くない。
だったら笑わせる。
誇張する。
洒落にする。

この感覚が、春画をただの性的な絵ではなく、江戸文化の一部として面白くしている。

なぜ江戸時代に春画は広まったのか

江戸時代に春画が広まった背景には、浮世絵と出版文化の発達がある。

木版印刷の技術が発達すると、絵は一点ものの高級品だけではなく、刷って広めるものになった。歌舞伎役者の絵、美人画、名所絵、読み物、絵草紙などが町人文化の中で流通し、その流れの中に春画もあった。

つまり春画は、完全に別世界の裏文化として突然出てきたものではない。

浮世絵が人々の娯楽になり、絵入りの本や版画を楽しむ習慣が広がる中で、大人向けの絵も自然に作られていった。

もちろん、表立って堂々と扱えるものばかりではなかった。幕府による出版統制や風紀への目もあり、春画はしばしば取り締まりの対象になった。

それでも作られ続けた。

なぜなら、需要があったからだ。

江戸の町人にとって、春画は刺激物であり、笑いのネタであり、色恋の読み物であり、時には贈り物にもなった。いまのように動画も写真もない時代、絵で人間の欲や滑稽さを楽しむ文化があったのは、むしろ自然な流れだったのかもしれない。

春画は誰が楽しんでいたのか

春画というと、男だけがこっそり楽しんでいたもの、というイメージを持つ人もいるかもしれない。

ただ、実際にはもっと幅が広い。

町人男性が楽しむものでもあり、夫婦で見るものでもあり、婚礼や性の知識に関わるものとして扱われることもあった。京都市観光協会の細見美術館「美しい春画」紹介ページでも、春画は江戸時代に「笑い絵」とも呼ばれ、浮世絵の普及とともに大名から庶民まで楽しまれたものとして説明されている。

このあたりが、現代の感覚とは少し違う。

もちろん、建前としては公にしづらい。けれど、完全に闇のものだったとも言い切れない。春画は、笑いと性が混ざった娯楽として、かなり広い層に知られていた。

しかも、春画には女性が受け身の存在としてだけ描かれているわけではない。

作品によっては、女性の表情や会話、主体的な欲望、夫婦の関係、年齢を重ねた男女の姿まで描かれる。大英博物館の所蔵品ページにも、若く美しい人物だけではなく、成熟した女性や夫婦らしき人物を描いた春画が確認できる。

江戸時代の春画は、現代人が想像するよりずっと雑多だ。

きれいなだけではない。
若い人だけではない。
まじめな恋愛だけでもない。
笑えるし、変だし、たまに妙に生活感がある。

だからこそ、当時の人間くささが残っている。

春画の面白さは露骨さだけではない

春画を見るとき、どうしても最初は性的な描写に目が行く。

それは仕方ない。かなり大胆に描かれているものも多いし、人体の一部が誇張されている作品もある。現代の美術館で展示される場合でも、年齢制限や注意書きが付くことがある。細見美術館の春画展ページでも、18歳未満の入場禁止が明記されている。

ただ、そこだけ見て終わると少しもったいない。

春画には、着物の柄、室内の調度品、布団、屏風、髪型、化粧、道具、季節感など、江戸の生活を感じられる要素が多い。

むしろ、性の場面を描いているからこそ、普通の美人画や役者絵では見えにくい「部屋の中の人間」が出てくる。

外向きの顔ではない。
少しだらしない姿。
くつろいだ空気。
人に見せない表情。
笑ってしまうような失敗や欲。

春画には、そういう人間の裏側がある。

また、春画は有名絵師とも深く関わっている。喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川国貞など、浮世絵を語る上で欠かせない名前も春画を手がけている。メトロポリタン美術館の所蔵品ページでは、歌川豊国一世に帰属される春画本や、江戸時代の木版版本が掲載されている。

つまり春画は、単に「昔のエロい絵」ではなく、浮世絵師たちの技術や遊び心が詰まったジャンルでもある。

線のきれいさ。
布の重なり。
人物の表情。
構図の大胆さ。
画面の中の小さな会話。

そういう部分まで見ていくと、春画はかなり情報量の多い絵になる。

春画には同性愛や男色を描いた作品もある

春画は男女の関係だけを描いていたわけではない。

江戸時代には男色や若衆文化もあり、それを題材にした春画も存在する。メトロポリタン美術館には「Handscroll of Ten Homoerotic Scenes」という、男性同士の性愛を描いた春画作品の所蔵ページがある。そこでは、春画が豪華な巻物や印刷物として作られ、近世日本で大量に生産されたことも説明されている。


ここも、春画を考える上では外せない。


江戸の性文化は、現代の価値観でそのまま割り切れるものではない。身分、年齢、遊里、芝居、若衆、夫婦、妾、遊女、商売、洒落、贈答。いろいろなものが絡み合っている。

だから春画は、現代人が見ると戸惑う部分も多い。

でも、その戸惑いも含めて、当時の文化を知る手がかりになる。

「昔の日本人は奥ゆかしかった」みたいな雑なイメージだけでは、とても説明できない。江戸の人々はもっと生々しく、もっと冗談好きで、もっと欲にも正直だった。

春画は、その証拠みたいなものでもある。

実際に春画を見られる公式サイト

春画は大人向けの作品なので、閲覧する場所には注意が必要。美術館や博物館の公式サイトであっても、作品によってはかなり直接的な描写が含まれる。

歴史資料・美術資料として見たい場合は、以下のような公式ページが参考になる。

大英博物館「Shunga: Sex and Pleasure in Japanese Art」関連資料

大英博物館の春画関連コレクションページ。春画に関係する収蔵品をまとめて確認しやすい。

大英博物館所蔵の春画巻物

17世紀前半の江戸時代の春画巻物。絵画、巻物として残る春画の例として見やすい。

メトロポリタン美術館「Untitled Book of Erotica Shunga」

歌川豊国一世に帰属される春画本。江戸時代の木版版本として掲載されている。

メトロポリタン美術館「Handscroll of Ten Homoerotic Scenes」

男性同士の関係を描いた春画巻物。春画が男女の関係だけを扱っていたわけではないことが分かる資料。

細見美術館「美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-」

2024年に開催された春画展の公式ページ。肉筆春画に焦点を当てた展覧会で、開催概要や出品リストを確認できる。

細見美術館「春画展」公式サイト

細見美術館の春画展ページ。浮世絵師の春画だけでなく、狩野派の作品にも触れている。

永青文庫「春画展」過去展覧会ページ

2015年に永青文庫で開催された春画展の公式情報。日本での春画展の流れを知る上でも参考になる。

春画を現代の感覚だけで裁くと見えにくいもの

春画は、いま見てもかなり強い。

作品によっては、ここまで描くのかと思うほど直接的だし、笑いの感覚も現代とは違う。中には、今の基準で見ると扱いに注意が必要なものもある。

ただ、春画を「昔のいやらしい絵」で終わらせると、江戸文化のかなり面白い部分を見落としてしまう。

江戸の人々は、性を完全に隠しきっていたわけではない。もちろん建前や規制はあった。だけど、その裏で人々は笑い、買い、贈り、眺め、時には夫婦や仲間内で楽しんでいた。

春画には、理想化された美だけではなく、人間の欲や滑稽さがそのまま入り込んでいる。

だから、妙に強い。

きれいな浮世絵だけを見ていると、江戸時代はどこか遠い世界に見える。でも春画を見ると、急に距離が縮まる。ああ、この時代の人たちも、ちゃんとしょうもないことを考えていたんだな、と分かってしまう。

そこが春画のいちばん面白いところかもしれない。

あとがき

春画は、扱いづらい題材だ。

大人向けの絵であることは間違いないし、作品によってはかなり直接的でもある。だから、誰にでも気軽におすすめできるジャンルではない。

ただ、歴史や美術として見た時、春画はかなり濃い。

浮世絵師の技術、江戸の出版文化、町人の娯楽、吉原や芝居町の空気、夫婦や男女の距離感、男色文化、笑いと性の混ざり方。そういうものが、きれいごと抜きで残っている。

春画を見ていると、江戸時代が急に教科書の中から出てくる。

粋で、下世話で、ふざけていて…

たぶん春画の魅力は、そこにある。

上品な美術として飾りたいわけでもない。かといって、ただの下ネタとして捨てるには惜しい。江戸の人々が笑いながら、少し隠しながら、それでもしっかり楽しんでいた大人の浮世絵。

春画とは、そんな厄介で面白い文化の残り香なのだと思う。


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