コンビニやドラッグストアへ行けば、今では当たり前のように並んでいる精力系のドリンクやサプリ。
マカ、亜鉛、アルギニンなど聞き慣れた成分が並んでいるが、ではこうした「精力をつけるもの」は昔から存在したのだろうか。
もちろん昔にはバイアグラもなければ、コンビニで買える精力ドリンクもない。
ところが調べてみると、日本や中国ではかなり古い時代から「身体を元気にする」「弱った身体を補う」と考えられた食材や生薬が利用されていた。
そして、その代表格として現在まで名前が残っているのがすっぽん・マムシ・朝鮮人参である。
そもそも昔にも「精力剤」はあったのか?

結論から言えば、現在の意味での「精力剤」がそのまま昔から存在したわけではない。
昔の薬や食文化では、「精力」「滋養」「強壮」「衰弱」「長寿」などが今ほど細かく分けられていなかった。
病気ではないけれど身体が弱っている。疲れやすい。年を取って元気がない。
そんな時に身体を補うものとして使われた食材や生薬があり、その中には後世になって「男を元気にするもの」というイメージを持つようになったものも多い。
| 素材 | 昔からの主な扱われ方 | 現在のイメージ |
|---|---|---|
| すっぽん | 食材・薬用 | 滋養強壮・精力食 |
| マムシ | 動物性生薬・民間利用 | 滋養強壮・マムシ酒 |
| 朝鮮人参 | 高級生薬 | 滋養強壮・健康食品 |
つまり、現代の「今夜のために一本飲んでおくか」という精力剤の感覚を、そのまま昔へ当てはめるのはちょっと違う。
とはいえ、身体が元気になれば、その先の性欲や性機能にも期待したくなるのは今も昔も同じ。
滋養強壮の食材や薬が、いつしか「精力がつくもの」として語られるようになったのも不思議ではない。
すっぽんは弥生時代から食べられていた

精力がつく食べ物として真っ先に名前が挙がるものの一つが、すっぽん。
なんとなく江戸時代あたりから食べ始めた高級料理のようにも感じるが、その歴史はもっと古い。
日本では少なくとも弥生時代には、すでにすっぽんが食べられていた。
静岡県の登呂遺跡からはすっぽんの骨が出土。奈良県の唐古・鍵遺跡では骨だけでなく、すっぽんらしき姿が描かれた土器も見つかっている。
今から2000年ほど前の日本人も、すでにすっぽんを食卓へ乗せていたわけだ。
ただし、ここは勘違いしないようにしたい。
弥生時代の人たちが「精力をつけるため」にすっぽんを食べていたと確認できるわけではない。当時は身近な水辺で捕れる貴重な動物性食材として利用されていたと考える方が自然だ。
迷路亭愛さすがに弥生人まで「今夜は勝負だから、すっぽん一匹いっとくか!」と考えてたことにはできないわね。
江戸時代にはすっぽん料理も広まる
時代が進むと、すっぽんは単に捕まえて食べる生き物から、れっきとした料理へ変わっていく。
江戸時代の料理書にもすっぽん料理が登場し、都市部では専門に扱う店も現れた。
現在のすっぽん鍋につながる食文化が、すでにこの頃には育っていたということになる。
さらに、すっぽんは肉を食べるだけではない。甲羅も生薬として利用されてきた。
こうして「食べ物でもあり、薬としても扱われる特別な生き物」という立ち位置が作られ、後世の滋養強壮・精力食というイメージにもつながっていった。
マムシは本当に「薬」にされていた


続いてマムシ。
すっぽん以上に「なんか効きそう」という見た目をしている。
毒蛇を食べる、乾燥させる、酒に漬ける。
字面だけ見るとなかなか豪快だが、マムシは単なる怪しい民間療法の材料だったわけではない。
「反鼻(はんぴ)」と呼ばれる動物性の生薬として実際に利用されてきた。
現在の生薬規格にも「ハンピ」がある
反鼻は、ニホンマムシなどの皮や内臓を取り除いたもの。
昔の怪しい薬屋だけに存在した名前ではなく、現在の厚生労働省「日本薬局方外生薬規格2022」にも「ハンピ(反鼻)」として収載されている。
つまり、「昔の人は蛇まで薬にしていたらしい」という伝説ではなく、マムシ由来の生薬そのものは今にも続いている。
そして生まれたマムシ酒
マムシと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、やはりマムシ酒ではないだろうか。
大きな瓶の中に茶色い酒が入っていて、その中には蛇が一匹丸ごとドーン。
冷静に考えればかなりすごい光景なのだが、あの見た目には妙な説得力がある。
毒を持ち、小動物を丸のみし、野山をたくましく生きる蛇。その生命力まで酒の中へ溶け込んでいそうに見えてしまう。
もちろん、見た目のインパクトと医学的な効果は別の話。
それでも「強い生き物を取り込めば、自分も強くなる」という感覚は分かりやすい。マムシが滋養強壮や精力の象徴として定着した理由の一つには、こうしたイメージもあったと考えられる。



あの瓶の中に蛇がドーンと入ってる見た目、ずるいのよ。「効くの?」より先に「めちゃくちゃ効きそう」が来るもの。
朝鮮人参は1000年以上前から日本にあった


すっぽん、マムシと並ぶ滋養強壮界の大物が朝鮮人参。
現在は高麗人参、オタネニンジンなどの名前でも知られている。
こちらは歴史がかなり古い。
中国の古い薬物書『神農本草経』にも人参が収載されており、中国や朝鮮半島では古くから重要な生薬として扱われてきた。
そして日本へ伝わった時期も相当早い。
739年、渤海から日本へ贈られた品物の記録には「人参30斤」が登場する。
739年といえば奈良時代。
正倉院に残された薬物の中にも人参があり、少なくとも1200年以上前には日本へ持ち込まれていたことになる。
江戸時代には高級すぎて国産化へ
ただし、当時の人参は今のように気軽に健康食品コーナーで買える存在ではない。
海外から入ってくる貴重な薬であり、非常に高価だった。
そこで江戸幕府は国内栽培を進め、日光などで朝鮮種人参の栽培が試みられた。その後は会津、信州、島根などにも産地が広がっていく。



今だと健康食品の定番だけど、昔は気軽に「ちょっと精力つけとく?」で買える代物じゃなかったのね。
それほど貴重だったものが、現在ではドリンク、飴、サプリメントにまで使われているのだから面白い。
なぜ「珍しいもの=精力がつく」になったのか


ここまで見ていると、昔から滋養強壮や精力と結びつけられてきたものには妙な共通点がある。
- すっぽん
- マムシ
- 朝鮮人参
- 鹿角
- 動物由来の生薬
- 珍しい海産物
とにかく珍しい、強そう、生命力がありそう、簡単には手に入らない。



珍しい、強そう、生命力ありそう。こうして並べると昔の精力食、効能以前にブランディングがめちゃくちゃ強いわ。
現代なら食品に何が何mg含まれているのかを分析できるが、昔はそんなことはできない。
長年の経験や伝承に加えて、「これを食べたら身体が温まった」「疲れた時に食べると元気になった」といった体感も重要だった。
さらに、力強く生きる動物や希少な植物を身体へ取り込めば、その力を自分も得られるような感覚もあった。
そして身体が元気になれば、当然ながら性欲や性機能の話とも結びつく。
こうして「身体を元気にするもの」から「夜も元気にするもの」へ、イメージが広がっていったと考えると分かりやすい。
じゃあ本当に精力はつくのか?
ここは歴史と医学を分けて考える必要がある。
「昔から精力に良いと言われている」ことと、「EDを治療できる」ことはまったく別の話。
すっぽんやマムシを食べたり、マムシ酒を飲んだりしたからといって、医薬品のED治療薬と同じような作用が保証されているわけではない。
朝鮮人参については、実際に男性の勃起機能を対象にした臨床研究も行われている。
ただし研究結果は、「昔から言われているんだから絶対効く」と言えるほど単純ではない。
2021年に発表されたCochraneのシステマティックレビューでは、9研究・587人の男性を対象とした結果を検討。朝鮮人参は自己申告による性交能力を改善する可能性が示された一方、標準化された指標で評価した勃起機能への効果は小さく、エビデンスの確実性にも限界があるとされた。
要するに、朝鮮人参もバイアグラのようなED治療薬と同列に考えるものではない。
「精力がつく」という昔ながらのイメージと、医学的に確認された治療効果はきちんと切り分けておきたい。
精力剤が変わっても、人間の願いはあまり変わらない
弥生時代から食べられていたすっぽん。
生薬「反鼻」として利用されてきたマムシ。
奈良時代にはすでに日本へ入っていた朝鮮人参。
現在の商品棚に並ぶ「精力系」の顔ぶれをさかのぼっていくと、そのルーツは思っていた以上に古い。
もちろん昔の人が、これらをすべてセックスのためだけに口へ入れていたわけではない。
本来は身体を養い、弱った身体を元気にしようとする食材や薬だった。
ただ、身体が元気になったら、その元気をどこに使いたくなるのか。
そこまで考えると、昔の滋養強壮薬と現代の精力剤は案外遠い親戚でもない。
時代によって中身や名前は変わっても、「いつまでも元気でいたい」という人間の願いそのものは、2000年前からあまり変わっていないのかもしれない。



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