ラブホテルやアダルトショップでおなじみのローション。
透明でドロドロ、手に取るとヌルヌル。少量でも驚くほどよく滑り、水を加えるとさらに広がる。
あの不思議な液体は、いったい何でできているのだろうか。
また、ローションといえば日本では「ペペローション」が有名だが、実はこの商品、半世紀以上の歴史を持つロングセラーでもある。
ローションの歴史を調べてみると、古代の油から医療用ゼリー、そして日本の風俗産業へと続く、意外に奥深い世界が見えてくる。
ローションが登場する前は何を使っていた?
現在のような工業製品が存在しなかった時代、人々は身近にある油脂や植物由来の粘液などを潤滑目的で利用していた。
古代ギリシャやローマではオリーブオイルが身体のケアやマッサージなど幅広い用途に使われており、性的な潤滑にも利用されていたとする歴史的な解説がある。
また、動物性の脂肪や植物油なども、現代のローションに相当する役割を果たしてきたと考えられている。
ただし、こうした歴史的な使用例と、現在の基準で安全に使用できるかどうかは別の話。身近な油なら何でも性的な潤滑剤に使えるという意味ではない。
現代のローションがそれらと大きく違うのは、滑りやすさや粘度を調整し、身体への使用や洗い流しやすさまで考えて製品化されていることだ。
1904年、医療用ゼリーとして登場した「K-Y Jelly」

近代的な水溶性ローションの歴史を語るうえで欠かせないのが、アメリカの「K-Y Jelly(ケーワイ・ゼリー)」だ。
1904年、ニューヨークの医療関連企業Van Horn and Sawtellが、医療処置の際に使う潤滑ゼリーとして販売を始めた。
当初は性的な用途を前面に押し出した商品ではなく、医療用の潤滑剤。やがて一般消費者向けの製品としても知られるようになった。
それまでの油脂とは違い、水溶性のゼリーは洗い流しやすく、油汚れが残りにくい。こうした特徴は、医療現場だけでなく性的な用途においても便利だった。
アメリカでは1980年代以降、潤滑剤が一般の消費者にとって身近な商品となり、1990年代には新しいブランドが次々と登場した。
現在では当たり前のように売られているローションだが、医療の世界で発展してきた技術が、その普及に大きく関わっている。
参考:K-Y公式サイト/Cosmetics & Toiletries
日本のローション文化を発展させた「トルコ風呂」
日本で性的な用途のローションが普及するうえで、大きな役割を果たしたのが現在のソープランドにあたる「トルコ風呂」だった。
1960年代後半から1970年代にかけて、トルコ風呂では「泡踊り」や「マットプレイ」といったサービスが発展していく。
1969年には川崎のトルコ風呂で泡踊りが始まったとされ、当時のサービスには石鹸の泡が使われていた。
しかし、石鹸はそもそも汚れを落とすための洗浄剤である。
長時間にわたって肌に石鹸を付けたり、繰り返し洗浄したりすれば、皮脂が奪われ、肌荒れにつながることもある。
そこで求められたのが、石鹸の泡に頼らず、身体を滑らせることのできる専用の潤滑剤だった。
この需要に応える形で、日本独自のローション文化が発展していくことになる。
1970年代に誕生した大ヒット商品「ペペローション」

日本でローションといえば、やはり「ペペローション」を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。
このペペを開発したのは、日本の化学メーカーである中島化学産業株式会社。
同社の公式サイトによると、もともとはリハビリ後のマッサージなどに使用する潤滑剤を開発していたという。
そこに着目したのが、当時の風俗店で問題になっていた石鹸による肌荒れだった。
既存の潤滑剤に改良を加え、ペペの原型となる「RUB MASSAGE JELLY」が誕生した。
メーカーの公式資料には、1973年に「PEPEE」を世に送り出したという記述があり、別の公式ページでは1978年にマッサージ用潤滑剤の特許を取得したと紹介されている。
つまり、ペペは1970年代から半世紀以上にわたって販売されてきた商品なのだ。
ペペは今でも年間約550万本が販売されている
ペペが驚くのは、その息の長さだけではない。
メーカーの公式サイトでは、ペペシリーズについて年間約550万本を販売していると紹介している。
単純計算なら1日あたり約1万5000本。もちろんメーカー公表の数字だが、半世紀以上続くローションブランドの規模を感じさせる。
現在はドラッグストアや通販などにも販路を広げ、風俗店だけの業務用品という存在ではなくなっている。
定番の「ペペ360N」は、水溶性のポリアクリル酸ナトリウムによる糸引き感と滑りが特徴。長年の業務用需要に支えられてきたシリーズの代表的な製品だ。
ローションのヌルヌルは何でできているのか?

あの独特のヌルヌルした液体。一見すると何か特殊な油が使われているようにも感じるが、一般的な水性ローションのベースとなっているのは水だ。
そこに水溶性の高分子成分などを加えることで、とろみや滑りを生み出している。
実際にペペ145Nの公式成分表示を見てみると、次の4成分が記載されている。
- 水:ローションのベースとなる液体
- ポリアクリル酸Na:水にとろみを付け、独特の粘りや糸引き感を生み出す成分
- EDTA-2Na:金属イオンの影響を抑え、製品の品質安定を助ける成分
- メチルパラベン:微生物の増殖を抑えるための防腐成分
こうして見ると、ローションは意外なほどシンプルな材料から作られている。
ヌルヌルの正体「ポリアクリル酸ナトリウム」
水性ローションの粘りを理解するうえで重要なのが、ポリアクリル酸ナトリウムという成分だ。
これは水を抱え込む性質を持った高分子化合物で、水に粘度を与えることができる。
ペペに使われているような水溶性のタイプでは、独特の糸引き感や滑らかな感触を生み出せる。
なお、同じポリアクリル酸ナトリウムという名前でも、分子構造や加工方法によって性質は異なる。紙おむつなどの吸水材に使われるものと、ローション用の水溶性原料をそのまま同一視することはできない。
また、ローションにはグリセリンやカルボマー、ヒドロキシエチルセルロースなどが使われることもある。
グリセリンは保湿や乾燥しにくさに関わり、カルボマーなどは粘度や使用感の調整に役立つ。
つまり、あのヌルヌルは単純に「水をドロドロにしたもの」ではなく、複数の成分を組み合わせて感触を調整したものなのだ。
参考:ペペ145N公式成分表示
ローションには水性・シリコン系・油性の3種類がある
一口にローションといっても、すべてが同じ原料でできているわけではない。
性的な用途の潤滑剤は、ベースとなる成分によって大きく3種類に分けられる。
| 種類 | 主な特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 水性 | 洗い流しやすく、幅広い用途に使われる | 乾きやすい製品もある |
| シリコン系 | 滑りが長続きしやすい | 一部のシリコン製グッズと相性が悪い |
| 油性 | 滑りが持続しやすい | ラテックス製コンドームを傷める |
日本で一般的なペペローションは、水性ローションの代表的な商品といえる。
水性ローションのなかでも、強く糸を引くタイプ、サラサラしたタイプ、乾きにくいタイプなど、製品によって感触はかなり異なる。
例えばペペ360スムージーは、カルボマーなどを使用して糸引きを抑えた製品。従来の強い粘りとは違う使用感を目指している。
ローション特有の糸引きが苦手なら、こうしたタイプを選ぶのも一つの方法だ。
ローションなら何でも身体に使って大丈夫?
ローションという言葉には、化粧水やマッサージ用品なども含まれる。
しかし、皮膚に使用することを想定した化粧品と、デリケートな部分への使用を想定した潤滑剤は、必ずしも同じものではない。
また、水性か油性かによって、コンドームとの相性も変わる。
特にラテックス製のコンドームにベビーオイルやワセリンなどの油性製品を併用すると、素材を傷めて破損につながる恐れがある。
コンドームと併用する場合は、水性または適合するシリコン系の潤滑剤を使用し、それぞれの製品表示を確認することが大切だ。
さらに、ローション自体に避妊効果や性感染症を防ぐ効果があるわけではない。
粘度や原料だけでなく、使用できる部位や用途にも違いがあるため、商品に記載された使用方法を確認したい。
風俗店の業務用品から身近な日用品へ
かつてローションは、医療現場や風俗店など、限られた場所で使われる印象の強い商品だった。
しかし現在では、ドラッグストアやインターネット通販でも購入でき、個人向けの小容量タイプから業務用の大容量タイプまで幅広く販売されている。
製品の種類も増え、保湿成分を配合したもの、香り付きのもの、糸引きを抑えたものなど、好みに合わせて選べる時代になった。
ペペローションを販売する中島化学産業も、現在ではさまざまなタイプの潤滑剤を製造している。
ちなみに同社は2024年、アイドルグループ「道玄坂69」がペペローションの公認アイドルになったことを発表している。
かつては風俗店で使う石鹸の代わりとして発展した製品が、半世紀を経てアイドルとのコラボ商品まで展開するようになったわけだ。
水溶性の高分子化合物に滑りやすさを与えるという技術自体は、決して派手なものではない。
それでも、医療現場で利用されてきた潤滑技術は日本の風俗文化と結びつき、やがて一般家庭でも使われる身近な商品へと発展した。
何気なく手にしているあの透明な液体にも、意外に長い歴史が詰まっているのだ。





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